生徒たちの自由な発想で広がる
iPadを活用した探究活動で伸びる力

茨城県筑西市に位置する茨城県立下館第一高等学校(以下、下館第一高校)。2020年4月には茨城県の県西地区初の県立高校附属中学が開校し、現在は中高一貫校として6年間の計画的・継続的な教育活動に取り組んでいる。その中で下館第一高校が実践するのが、大学や企業と連携し、国内外および地域社会の課題や、自分自身の興味関心についての解決策を研究していく「探究活動」だ。

18の講座から選んで学ぶ探究活動

 自主自立の精神と、自由な校風という伝統を有する下館第一高校は、2023年度に創立100周年を迎える。その歴史の中で2021年度から新たに整備したのが、生徒1人につき1台のiPadだ。同校では10インチ以上のiPadを学習者用端末に指定しており、生徒たちはそれらの端末を各家庭で購入して授業に臨んでいる。茨城県の中にはOSが混在した環境で授業に取り組む公立高校も存在する中、iPad OSの環境に統一した理由について、同校 教諭で、組織マネージメント推進部 部長を務める日向岳王氏は「OSが統一されていることによる、指導のしやすさが大きいですね。iPadは生徒たちの方が使いこなしています。現在の本校ではiPadの使用に制限をかけていないため、生徒たちは主体的に学びに必要なアプリをインストールするなど、積極的に活用しています」と語る。

 そうしたICTツールを活用し、取り組んでいるのが探究活動だ。高校では2022年度の新学習指導要領から「総合的な探究の時間」の教科が新設され、生徒自身が主体的に課題を設定した教科横断的・総合的な学びを行い、その成果や研究結果の発表を行うことが求められている。下館第一高校では4年前となる2018年度からこの総合的な探究の時間に基づいた探究活動に取り組んでおり、現在では18の講座から各自が学びたい講座を選択し、研究テーマを設定して個人やグループによる探究を進めている。

 講座には物理学や日本文学、生物などの既存の教科に準じたものだけでなく、ビジネスプロジェクトやサイエンスプロジェクト、グローバルプロジェクト、医療福祉なども存在する。研究テーマも多種多様で、2021年度にはグローバルプロジェクトにおいて「少年兵の児童労働」や「日本と世界のジェンダー意識」などを設定した探究活動が実施された。

おのおのが設定した研究テーマを基に、探究的な学びを進めていく探究活動。その発表資料を作る際にも、iPadが有効に活用されている。

探究に役立つ土壌を整備

 探究学習がスタートした当時は1人1台端末としてiPadが整備されていなかったため、生徒たちが所有するスマートフォンを活用して調べ学習や研究結果のまとめを行ったという。iPadが導入されてからは生徒たち自身でアンケート作成ツール「Google Forms」を活用して調査を進めたり、動画編集アプリをインストールして成果報告用のコンテンツを制作したりと、学びの中で文房具のようにiPadの活用を進めている。

 例えば、2年4組の潮田美咲さんは「茨城弁」を研究テーマに設定し、日常生活での使用率をGoogle Formsを使い校内でアンケート調査を行った。調査結果は円グラフ化すると同時に、茨城の魅力なども含めて自身でイラストを描き、動画にまとめた。動画制作には手書きアニメーション制作アプリ「FlipaClip」や動画編集アプリ「CapCut」を活用している。これらは学校から指定されたアプリではなく、潮田さんが独自に調べて選び、インストールしたものだ。下館第一高校の「自主自立」や「自由な校風」がiPadの活用にも表れている。

 こうした探究活動をサポートするため、下館第一高校では「館一探究ポータル」というポータルサイトをGoogle サイトで作成し、校内の生徒に公開している。「①自分のテーマを見つけよう」「②詳しく調べよう」といった探究活動の進め方の手順や、調べる上で役立つWebサイトへのリンクも用意されている。また、「ブリタニカ・オンライン中高生版」を契約しており、確かな情報源から調べられる土壌を整えている。「探究活動でまとめる資料に使用する画像やイラストなどのコンテンツについても、きちんと権利関係がクリアなものを使うよう指導しています。例えば使用したいコンテンツの権利を市役所などが有している場合、許諾を得るために生徒自身が市役所に問い合わせるといったこともしています」と日向氏は語る。

言語に興味があることから、茨城弁について調査した2年4組の潮田美咲さん。Google Formsを活用したアンケート調査を基に円グラフで分かりやすく使用率を示した。発表資料のイラストはもちろん、ナレーションも全て自身が行ったという。

研究活動のフローを意識した学び

 探究活動を通して育まれた力について日向氏は「必要な情報を整理する力」「仮説を立てようとする力」「改善策を見つける力」の三つを挙げた。「まだまだ一部ですが、しっかりとした仮説を立てられている生徒もいます。一方で、その仮説を立証するための論拠を立てたり、材料を作ったりする力はまだまだ不足しています。今後の探究活動ではこうした力を身に付けさせ、仮説、検証、分析がきちんと行える力を育てていきます」と日向氏。

 上記のような仮説を立てる力や、検証、分析といった研究活動のフローを意識した学びを実現する上でも、iPadは非常に有効に活用できる。「例えばスポーツなどにおいても、iPadがあれば撮影し、その客観的なデータを基に改善に取り組むといった活用が可能になります。仮説、検証、分析といったサイクルを日常的に回すことができるでしょう」(日向氏)

 自由な活用の中で生まれた創造性も存在する一方で、ゲームなど学びに必要ないアプリをインストールし使用している生徒も存在するという。日向氏は「現在の本校ではiPadの活用に制限をかけていませんが、2023年度は試験的にMDMやペアレントコントロールなどを導入して、ゲームアプリなどを勝手にインストールしたり使用したりできないように設定する予定です。それによって生徒のiPadの活用が阻害され、デメリットが生じることもあると思いますので、iPadの活用についても今後仮説・検証を重ねてブラッシュアップを進めていきます」と展望を語った。

(左):筑西市の下館祇園まつりや羽黒神社などについて調べた内容を、旅番組のような形式でまとめている。動画はスマートフォンで撮影したという。
(右):探究活動以外の授業でもiPadは積極的に活用されている。写真は地元の自然をGoogleマップで探して発表する生物の授業。