ユーザーインターフェースの統合と統合SASEの提供がトレンド
コロナ禍を経て、働き方の多様化と共にAIをはじめとした新しいテクノロジーの急速な普及が進んでいる。ICTの活用範囲が拡大すると同時に、それを支えるネットワーク環境にも対応が求められる。しかし、ネットワークは構成が複雑でボトルネックなどの問題発生時の把握が難しく、運用の負担が大きい。さらに、インターネットを含めたネットワークの可視化と運用環境の統合が必要となるなど一筋縄では行かないことも多い。一方、ネットワークにおけるセキュリティに関してはSASEへのニーズが高まり、中小企業向けのサービスが続々と提供され始めている。ネットワークビジネスは今、大きな裾野が広がっている。
設定・運用のUIを一つに統合
中小企業に最適化された製品・サービスを新たに提供
シスコシステムズは自社開発および企業買収によって数多くの製品やプラットフォームを提供している。従来は設定や運用をそれぞれの異なる環境で行わなければならず、例えばCisco CatalystとCisco Merakiでは異なるスキルの習得が必要だ。しかし今後は「Cisco Networking Cloud」に基づき、設定や運用、操作などのUIが統一される。またCisco Catalystに中小企業や小規模導入に最適化された製品が加わったほか、中小企業が導入しやすいSASEソリューションも提供されるなど顧客への提案の切り口が拡充されている。
Cisco Networking Cloudの実現に向けて
UIの統合を推進
ハイブリッドワークの浸透やクラウドサービスの利用機会の増加により、ビジネスで利用されるネットワークにインターネットが介在するようになった。
インターネットが介在するネットワークはベストエフォート型で、経路制御できず構成が複雑であるため、ボトルネックやトラブルの原因が特定しづらいという問題がある。
そのため「ネットワークをシンプル化してトラブルや性能、安全性の低下を予測可能にするとともに、成果が得られる対策や改善を講じたいという要望が増えています」と説明するのはシスコシステムズで長年にわたってエンタープライズネットワーキング事業を担当してきた執行役員の眞﨑浩一氏(2023年11月より執行役員 公共事業統括)だ。
そこでシスコシステムズは「Cisco Networking Cloud」(以下、Networking Cloud)というビジョンを示し、顧客の要望に応えるべく製品やプラットフォームの変革を進めている。
Networking Cloudとはオンプレミスやクラウドで利用されているシスコシステムズのさまざまなネットワーク製品およびサービスを統合的に運用できるようにする“ビジョン”であり、UXデザインの統合などにより全てのネットワークドメインを一つのUIで管理できるよう、すでに具体的な取り組みを進めている。
将来的にはCisco Merakiとワイヤレス製品、そしてCisco CatalystがNetworking Cloudのコントローラーから一つのUIを統合的に設定、運用できるようになるという。
一方でCisco Merakiのクラウドプラットフォームだけを利用する、あるいはCisco Catalystのコントローラーであるオンプレミスの「Cisco DNA Center」だけを利用する、もしくはこれらの両方をハイブリッドで利用することも可能になる。その際も、将来的にUIを統合していくという。
Cisco Catalystブランドを拡大
2024年以降にサービスの名称変更
Networking Cloudのビジョンは2〜3年の期間をかけて実現していく計画だ。Networking Cloudの実現に向けて新たなプラットフォームをスクラッチで開発するのではなく、当面の間はCisco CatalystとCisco Merakiのそれぞれのプラットフォームが持つ優れた部分を生かしながら、ユーザーの要望に応じてシームレスかつ柔軟に連携、運用できるようにしていく。
例えばCisco Merakiのクラウドプラットフォームの管理画面からCisco DNA Centerを意識することなくCisco Catalystを設定、運用できるようにしたり、同様にネットワーク可視化サービスの「ThousandEyes」の機能を利用できるようにしたりしていくという。つまり「いろいろな製品のコントローラーおよび管理ツールを横断的に利用できるようになる」(眞﨑氏)というわけだ。すでにこのサービスは個別に提供が開始されている。
シスコシステムズのAPJC エンタープライズネットワーキングで業務執行役員 プリンシパルアーキテクトを務める生田和正氏は「Networking Cloudの実現に向けた取り組みが始まったばかりの現在は部分的な統合ではありますが、現段階においてもその効果はCisco Meraki側とCisco Catalyst側(Cisco DNA Center)のそれぞれで、具体的な事例で発揮されています」と強調する。
なお2024年以降に「Cisco DNA Center」は「Catalyst Center」へ、「Viptela SD-WAN」は「Catalyst SD-WAN」へと名称を変更するなど、Cisco Catalystブランドの拡大も進める。
Cisco Catalystに中小企業向けを追加
SASEソリューションも中小企業に提供
シスコシステムズは中堅・中小企業への取り組みも強化していく。同社は中堅・中小企業に向けてセキュアなネットワークの実現と持続可能なハイブリッドワークの実現を目的として、パートナーとの連携、オンライン体験の拡充、市場への新たなルートの三つのチャネル戦略を推進してきた。2024年度はこれらに加えてポートフォリオ戦略にも注力し、中堅・中小企業のニーズに合わせた製品の拡充と提供形態の整備を推進していく。
製品の拡充においてはCisco Catalystシリーズに中小企業および小規模導入をターゲットとした製品「Cisco Catalyst 1200」シリーズと「同1300」シリーズを新たにラインアップに加えた。Cisco Catalyst 1200シリーズと同1300シリーズで35製品もの豊富なラインアップをそろえており、2万円台から提供される。
これらは既存のエンタープライズ向けのCisco Catalyst製品の廉価版ではなく、中小企業および小規模導入で求められる機能や特長を見極めて新たに設計された製品で、Cisco Catalystの魅力であるさまざまな機能が提供されながらもユーザーがDIYで簡単に設定、運用できるシンプルさを両立していることが最大の魅力だ。
中堅・中小企業に向けたセキュリティサービスも新たに提供された。中堅・中小企業向けのSASEソリューション「Cisco+ Secure Connect」である。Cisco+ Secure ConnectはVPNサービスやZTNA(ゼロトラスト ネットワーク アクセス)、拠点間中継機能などの柔軟な接続性を提供するとともに、DNSセキュリティやWebセキュリティ、クラウドファイアウォール、SaaSセキュリティなどの高度なセキュリティ機能がワンストップで提供されるSSE(Security Service Edge)プラットフォームサービスだ。
さらにSD-WANルーターとUTMファイアウォールの機能が利用できる「Cisco Meraki MX」とCisco+ Secure Connectを組み合わせることで統合SASEが単一ベンダーで簡単かつコストを抑えて実現できる。
このようにネットワークの効果的かつシンプルな運用環境の実現、あるいは中堅・中小企業または小規模導入に最適化されたネットワークの機器とセキュリティソリューションの提供など、顧客への提案の切り口も拡充されている。
SD-WANとSSEを1社で提供してSASEを実現
スイッチ製品をデータセンターに売り込む
ヒューレット・パッカード・エンタープライズのネットワーク事業は2023年第3四半期(5〜7月)において全売上高の20%を占める同社の屋台骨だ。同社のネットワーク事業は堅調に推移しており、日本市場では既存のワイヤレスおよびスイッチを引き続き伸ばすとともに、IoTやローカル5G、NaaS(Network as a Service)でもビジネスを展開する。さらに今後の展開に注目したいのがSASEである。
ネットワークとセキュリティに対して
管理を楽にするための検討が盛んに
日本市場への取り組みについて、攻め口となる企業が直面しているネットワークに関する課題について日本ヒューレット・パッカード(以下、HPE)で同社のUnified SASE事業の専任者であるAruba事業統括本部 事業開発本部 Unified SASE ビジネス開発担当の奥野木 敦氏は「コロナ禍の際に急きょテレワークを実施しなければならなくなったお客さまではネットワーク環境が分散するとともに、セキュリティの強化も迫られたことから、さまざまなソリューションをパッチワーク状態で導入して対応することになりました。同時にクラウドサービスの利用が加速した結果、ネットワーク構成が複雑化し、それに対応する管理およびセキュリティに関するソリューションがサイロ化しているという問題に直面しています」と説明する。
そもそもコロナ禍以前もネットワーク環境がサイロ化し、構成が複雑化していた。コロナ禍を経てネットワークが社外にも伸び、その問題がさらに悪化したと言えよう。HPEで執行役員 Aruba事業統括本部長を務める本田昌和氏は「ネットワークを新たに構築したり、既存の機器をリプレースしたりする際に同じメーカーの製品を導入したとしても、機器に搭載されるOSや提供される管理ソリューションが異なることが原因で、管理が複雑になるという課題は以前よりありました」と指摘する。
運用中のネットワーク環境におけるサイロ化と複雑化という問題が深刻化する中で、ネットワーク構成を最適化してシンプルにし、管理環境を統合化したいニーズが高まっているという。さらにセキュリティの向上は継続的かつ優先的な課題であることは言うまでもない。こうしたビジネスチャンスに向けてHPEでは二つのアプローチでビジネスを伸ばしていくという。
クラウドから各拠点の機器を一元管理できる
スイッチ製品の使いやすさを体験してほしい
本田氏は「まずビジネスのベースラインを支えている要素の一つ、スイッチ製品に関して、グローバルにおいても日本市場においても引き合いが増えています。その理由としてArubaのスイッチ製品にはエッジからデータセンター、コアまで同一のOSが搭載されており、どの製品を購入しても設定などが同じ操作環境で行え、操作方法を新たに学習する必要がなく、経験者ならばすぐに使いこなせるというメリットがあります。またOS自体の操作環境も非常に分かりやすく、扱いやすさが評価されています」と説明する。
さらに「スイッチ製品に限らずワイヤレス製品なども含めてAruba製品はクラウドで利用できる運用・管理サービスの「Aruba Central」を通じて、各拠点にあるAruba製品をクラウドから一元管理できるメリットもあります。こうした導入時の設定のしやすさ、拠点に分散する機器を一元管理できる利便性および管理業務の負担軽減などが、ネットワーク環境におけるサイロ化と複雑化という問題が深刻化する中でAruba製品の引き合いの増加につながっているとみています」と強調する。
国内市場ではArubaのワイヤレス製品は非常に人気が高く、トップシェアを狙いたいと本田氏は意気込む。さらにスイッチ製品については国内市場では成長の余地があり、エッジの売り上げを伸ばすことに加えてデータセンター向けの新製品「CX10000」を擁して顧客を開拓することで、国内市場で上位のシェアを獲得したいと話す。
奥野木氏は「ネットワークエンジニア向けにAirheadsというコミュニティを運営しており、そこでAirheadsアカデミーという教育プログラムをオンラインとオフラインの両方で提供しています。Airheadsアカデミーではこれまで実施されたセミナーのアーカイブも視聴できますので、ぜひArubaの使いやすさを体感してください」とアピールする。
IoTやローカル5G、NaaSにも注力
1台のアクセスポイントでSASEを実現
HPEの国内でのネットワーク事業においては、IoTやローカル5G、教育ICTや政府および自治体におけるデジタル化、NaaSの三つにも注力していくという。本田氏は「製造業においてデジタル化が進み始めており、大企業からサプライチェーンにつながる中小企業へとIoTの活用が波及するとみています。その際にローカル5GとWi-Fiを組み合わせたネットワーク環境を提案していきます」と説明する。
そして「Next GIGAやデジタル田園都市国家構想によって学校や政府、自治体へのビジネスの伸びも期待できます。そしてNaaSの需要が高まっており、マネージドサービスプロバイダー向けのビジネスが伸びるとみています」と話を続ける。
そしてもう一つ、SASEにも注力する。HPEは今年3月にAxis Securityを買収してエッジ領域におけるSASEへの強化を図った。Axis Securityはネットワークセキュリティサービスをクラウドで提供する「Security Service Edge」(SSE)プラットフォームを提供しており、SSEを通じて提供される各種ネットワークセキュリティサービスとSD-WANを組み合わせることでSASEをワンストップで提供できる強みがある。
奥野木氏は「ワイヤレスアクセスポイント製品のAP-503HおよびAP-505Hは1台のアクセスポイントだけでLANとWi-Fi 6対応のWAN、さらにローカルブレークアウトなどのSD-WAN機能とHPEのSSEへの接続によるSASEが実現できます。主に小規模拠点のネットワークをターゲットにビジネスを展開していきます」とアピールする。