あの人のスマートワークが知りたい! - 第1回

モバイルワークしやすい環境へ。オープンで柔軟な環境づくりに舵を切った森田社長の判断とは?

株式会社ミクシィ 代表取締役社長 森田仁基氏

文/編集部、写真/曽根田元、聞き手/まつもとあつし


森田仁基氏。ミクシィ代表取締役社長。

橋本貴史氏。はたらく環境課課長。

森本淳氏。人事部 企画グループ マネージャー。

チームの成長速度を阻害しないよう、ツールは必要以上に統制しない

―― まずミクシィグループの仕事環境について教えてください。

森田 基本的なところから言いますと、服装は自由です(笑) 朝は10時出社で帰りは15時以降でフレックスも可能です。ある程度自分の生活をコントロールできます。社員はほぼノートPCを持って、外出先からでもVPN経由で仕事ができます。

 あと変わったところでいうと、内線がiPhoneになっているので、外線も内線も基本的にiPhoneを使います。そして『Slack』というチャットツールを全社で導入していますので、スマホ1台あればいつでもコミュニケーションを取れる仕組みになっています。

橋本 ツールに関してはあまり統制していません。各プロダクトの事業成長スピードが違いますので、一様に統制してしまうと、それが足かせになることもあります。Slackはグループ会社も含めて全体で導入はしていますが、プロダクトによっては『Skype』をメインで使っていますし、各プロダクトに任せている部分は大きいと思います。

―― プロジェクト管理はどのようにされているのでしょうか?

森田 Atlassianの「JIRA」(タスク・チケット管理)および「Confluence」(Wiki)を使用していますね。

―― そこは統一されているのですか?

橋本 全社的に『使ってください』と。その上で、別のサービスを使っていることもあります。モンスターストライクを開発運営しているXFLAGスタジオなどは、スタジオ専用のJIRAやConfluenceを自分達で構築して使っていますね。

―― 導入に関してはヒアリングされたりするのでしょうか?

橋本 影響範囲に応じて全社にヒアリングをする事もあります。メールサーバーリプレイスの際は、GmailとOffice365どちらにするか全社にヒアリングをしました。そのときは結局両方契約して、メールはGmailを採用、Office製品は365になりました。全社のスケジューラーは昔からサイボウズを使っていますが、その上でGoogleカレンダーも併用している部署もあります。

―― 両方契約! ずいぶん柔軟ですね。

森田 役割ごとにツールをひとつに絞る、というのは難しいですね。スクラムでの開発も社内に浸透していますし、そもそも全面的にツール頼みということはありません。

 実際には、全面ホワイトボードにした壁が文字で埋まっていたり、チームごとにスタンディングで5分朝礼することが非常に効率的だったりします。その上でJIRAなどのツールを使う体制ですので、アナログとデジタルを両輪にして走っています。

―― 支給されるスマートフォンにも、各自好みのアプリを入れている状態ですか?

橋本 一応、SIMの抜き差し検知や紛失時のデータ消去といった最低限の制御は管理者が出来るようになっています。そのうえで、アプリは自由に入れて使っても良いという体制です。

森本 むしろ各社員がさまざまなアプリやサービスを積極的に体験して、学んでいくことが重要だと考えています。

 そのためにGoogle PlayやiTunesのギフトカード購入金額の半額を、上限を決めて会社が補助する制度を作りました。運用に関してはリテラシーと言いますか、個々人の意識を高めていくほうが大切でしょう。

かつてはモバイルワークが苦行そのものだった!?

―― 巷ではガチガチに管理する企業がまだまだ多いと思いますが、そこを柔軟にしていこうというのは、森田社長の方針ですか? それとも会社で培われてきた思想の結果なのでしょうか?

森田 実は僕らの会社はかつて、ものすごくガチガチな管理だったんです。

 メールもスケジュールも携帯電話では見られませんでしたし、ノートPCで外から仕事をしようにも、暗号化ソフトのせいで起動は遅いし、VPNを繋いでリモートデスクトップで社内のPCに繋いでといったように、何ステップも踏まないと目的の情報に辿りつけませんでした。大規模なSNSを運営していることもあって、とにかく“完全にセキュアな環境”にこだわっていましたね。僕もそのなかで仕事を続けていました。

 ところが合弁会社へ出向した際、社員とパートナーが(それぞれの環境を越えて)一体感を持って作業していることを目撃して非常に驚きました。そして僕自身もその環境で働くなかで、仕事の進み方がものすごく早いことを実感したんです。

 そこで、ミクシィに戻った後、モンスターストライクのプロジェクトを立ち上げて、ゲームのアクション部分をパートナーさんと一緒に作るとなったとき、パートナーさんは社内に入れないので、逆に社内チームのほうを会議室に移動させて開発することを許可したりと、ちょっとずつスピードの優先を推し進めて現在に至っています。

 今も“リスクをどのくらい負えるか?”を試行錯誤中です。組織は縦横を繰り返して変わっていくものだと思いますが、今のミクシィグループは事業部ごとに切って、比較的小さなカンパニーという形態をとっています。サービスにまつわるユーザーサポートやPR、採用などは、スピーディーに意思決定ができるよう各事業部・グループ会社が自分たちの責任で動いています。

―― システムを柔軟に取り入れようとすると、管理コストは上がってしまいますが、それを吸収できるだけのリソースが各チームに割り振られているというところが大きなメリットですね。

コミュニケーション最重視。ワークスタイルの変化への対応は今後の課題

―― どうしても会社に直接来て働くことができないという人のための施策はあるのでしょうか?

森田 いろいろな事情があって会社に来られない社員に対しては、上長の了承を得ての在宅勤務制度があります。ただ、どちらかというと僕らはリアルのコミュニケーションを大事にしている会社なので、今のところはできるだけ会社に来ようという方向ですね。

 そのため社内にはパーティションもなく、見渡せるようになっています。皆が集まって話し合いながら作業を進めていく文化です。

―― それはどういったお考えからなのでしょうか?

森田 もともと僕らは“身のまわりの人たちとの関係によって人としての生活の充実がある”という考えでサービスを作っています。当然、働くときもその方が、基本的には良いと思います。昨今はネット回線の品質も上がっていますし、スマホ1台あれば顔を見ながら会議もできますが、一方で絶対に海外出張はなくならないと思うんですよね。

―― 今後、育児や介護と仕事との両立に対して考えていること、もしくは取り組みなどがあれば教えてください。

森田 子どもを持つ社員が増えてきたこともあり、まさにこれから考えていくフェーズです。育児に関しては病児保育やベビーシッター利用費用の上限を決めて負担するなどの取り組みを始めています。今後も仕組みの整備を進めて、介護などの面にも目を向けていく必要があると思います。

―― 森田社長にとって「スマートワーク」とは?

森田 いわゆる心の持ちようですが、ON/OFFの切り替えをしっかり行いつつも、ONに切り替わったらすぐダッシュできるように備えておくこと、でしょうか。私は好きなこと、興味あることを追及していくタイプなので、たとえば週末に自宅でのんびりしているときも、なんとはなしにアンテナを張っておき、モードを切り替えた際に強く一歩目を踏み出せるようにしています。

―― 最後に、森田社長が長年心がけてきた働き方についてのコツのようなものはありますか?

森田 基本、“敵よりも味方を作ること”ですね。当たり前のことですが、1人でできる仕事はありません。社内外でプロジェクトを組む必要がありますが、とにかく人が集まったときは必ず全員の味方になろうと考えています……ちょっとニュアンスが難しいですね(笑)

―― 集団を敵と味方にはっきり分けて考える人もいますが、森田社長の場合は、全員味方だと。

森田 そうですね。敵対してしまうと何事もうまくいかないし、一緒に仕事をする仲間にも気持ちよく動いてもらいたいと思う方なので、コミュニケーションすることを常に心がけています。

―― そう言われて気づきましたが、ミクシィグループはリアルな関係を深めていくためのサービスでヒットを飛ばすイメージがあります。人と人をつなぐSNSで成長されましたし、モンスターストライクも、スマホでリアルな仲間と楽しめる何かを作りたいという考えから始まったと聞きます。森田社長の考え方はミクシィグループの考え方と同調しているのですね。今回はありがとうございました。