RPAとAI-OCRの組み合わせで申請業務の負担を軽減

ペーパーレス化が進んではいるものの、いまだ紙ベースで進む行政手続きも多くある。紙の書類を職員が手入力で打ち込んで、電子データ化するケースも多く、書類の枚数が増えれば増えるほど作業者の負担は大きくなってしまう。そんな業務課題をRPAソリューションとAI-OCRを導入することで解決した神奈川県の横浜市こども青少年局 保育・教育認定課の取り組みに注目した。

約1万7,000件の申請書を手作業で処理

神奈川県横浜市
神奈川県の東部に位置する、政令指定都市。378万人を超える人口を有する日本最大の都市。横浜中華街や元町、山下公園など年間を通して多くの観光客が訪れている。

 幼児教育・保育の無償化や共働き世帯の増加などによって、保育所への入所希望者は年々増加している。横浜市において、保育所の入所希望者の選考や保育所を利用するための給付資格を審査する認定業務などを行っているのが、こども青少年局 保育・教育認定課だ。横浜市には日々、入所希望者からの申請書類が寄せられている。特に4月の入所希望については、10月下旬~11月下旬に集中して申請書類が届く。これらに対応するため、職員や派遣スタッフ80名以上を動員して申請書類の整理、審査、業務システムへの入力作業を集中して行う「事務処理集中センター」を設置していたが、課題も多く生じていた。

「4月の入所希望の申請は約1万7,000件届きます。申請書類は、給付認定申請書や就労証明書、保育所の利用申請書といった複数の書類が含まれており、全て処理しなければなりません。郵送で届く申請書類を開封し、PCにデータを入力、目視でチェックするといった作業に500時間ほどかかっていました。今後も続く申請業務における長時間労働や業務量のパンクが懸念され、業務のデジタル化を検討しました」と横浜市こども青少年局 保育・教育認定課の岡崎有希氏は話す。

 そうした申請業務の課題を解決するため、横浜市こども青少年局 保育・教育認定課において、NTTデータのRPAソリューション「WinActor」とAI insideのAI-OCRを実現するエッジコンピューター「AI inside Cube」を導入して2度にわたる実証実験が行われた。

 申請書を読み取るAI-OCRには、LGWAN-ASP上に読み取りエンジンを構築できる「NaNaTsu AI-OCR with DX Suite」を搭載したオンプレミス版のAI inside Cubeを利用することで、読み取りの精度を担保しつつセキュリティ性にも考慮した。そしてWinActorを連携させ、スキャンした申請書データのアップロード、テキスト変換したデータのダウンロード、業務システムへの入力、受付簿の作成などの作業を自動化した。

500時間の稼働時間を削減

 横浜市こども青少年局 保育・教育認定課が行った実証実験の内容は次の通りだ。

■1度目の実証実験
2020年5~7月に実施。
AI-OCRとRPAのWinActorを組み合わせて、認定業務に活用できるか検証を行った。200~300件のダミーデータを使い、実際の認定業務と同様に処理し、読取速度や正確性、現場での使いやすさなどを確認した。

■2度目の実証実験
2020年10月~12月に実施。
横浜市にある18の行政区のうち、一部の区に対象を絞り、保育所の認定業務に適用できるかフィールドテストを行った。

「実証実験では、試験的にシナリオの修正などを行いながら利用していたため、RPAが止まってしまったり、意図しない動きをしたりと苦労も多くありました。しかし、結果的には受付簿の作成業務を自動化し、職員にかかっていた500時間の稼働時間を削減できました」と横浜市こども青少年局 保育・教育認定課の竹森庸陽氏は振り返る。

市民サービスの向上にもつながる

申請書をAI-OCRで電子化したことによって、申請書類の内容を事務処理集中センターと区内18カ所にある区役所間で共有ができるようになった。
「電子化する以前は、申請書類に対して問い合わせがあった際には、区の担当者が事務処理集中センターで原本を探して内容を確認し、市民に折り返し電話して回答するという手順が必要でした。RPAの導入で電子データ化してPC上で閲覧できるようにしたことで、市民を待たせることなく問い合わせ対応が可能になり、サービス向上に役立っています」(竹森氏)

 実証実験を経て、横浜市こども青少年局 保育・教育認定課では、2021年度からWinActorとAI inside Cubeの本格導入をスタートする予定だ。

 最後に、庁内の業務効率化に向けてRPAの導入を検討しているという自治体に向けて岡崎氏は、「RPAは長期的な運用が大切だと考えています。一度導入すれば、業務が一気に楽になるというわけでもありません。当課も本年度から本格的な導入の実施になります。今後、RPAの導入を検討される自治体さまにも、2年後、3年後といった長期的な視点で見て導入を決めてほしいです」とアドバイスを語った。