教員への研修や支援がICT活用を日常にする
神奈川県の溝の口にキャンパスを置く洗足学園は、幼稚園から大学院までの園児、児童、生徒、学生が学ぶ総合学園だ。その小学校では、2018年からiPadを活用した学びをスタートさせている。共用のタブレット活用からスタートし、現在は2年生から個人所有のiPadで1人1台の端末環境を実現しているその取り組みを取材した。
全教員がICTを活用する環境作り
「導入のきっかけは、子供たちの荷物が軽くなることでした」と振り返るのは、洗足学園小学校 教頭の赤尾綾子氏。私立校である洗足学園小学校では、遠方から学校に通う児童も少なくない。小学校の児童にとって、重たい紙の教科書や教材は身体に大きな負担といえる。そこで同校は、“子供たちの負担を減らすテクノロジー”としてタブレット導入の検討をスタートした。
2016〜2017年にかけて、学校共用のiPadを導入し、まずは教員が使うところからスタートした。段階的に授業の中で子供たちにも使ってもらい、2018年から3年生の児童を対象に個人所有による1人1台の端末環境を整備した。その後、iPadを所持する学年は2年生に前倒しとなり、現在は1年生が共用のiPad、2年生から個人所有のiPadという運用を行っている。
現在の洗足学園小学校の授業では日常的にiPadが使われており、「使っていない授業を探す方が難しい」と赤尾氏。そうした授業への浸透の背景にあるのは、“全教員がiPadを活用する”という姿勢がある。「多くの学校では、ICTが得意な教員や、いわゆるICTの認定ティーチャーが指揮を取り、学校全体のICT教育を進めていきますが、本校では教員全員がiPadを活用できる仕組み作りを大切にしました。例えば毎時間iPadを開く習慣を作るため、問題集やテキストなどの教材にiPadからアクセスできるようにしました。また、AppleTVを全教室に配備して、電子黒板(現在はプロジェクター)にワイヤレスでiPadの画面を表示できるよう環境を整えました」と赤尾氏は振り返る。また、ICT補助を行う支援員も配置し、教員の負担を軽減できるようにした。
特にこだわっているのが教員に対する研修だ。「本校では、『ICT cafe』という教員向け勉強会を毎月開催しています。多くの研修が勤務時間外や土日に実施されますが、本校ではこれらの研修は全て勤務時間内に実施することで、足並みをそろえたICT活用につなげています」と赤尾氏。洗足学園小学校では子供を育てている教員も多く、仕事と子育てを両立させる上でもこうした勤務時間内の研修は喜ばれるという。
iPadが広げる学びの可能性
全教員がiPadを活用できる環境にある洗足学園小学校の授業風景では、教科書や筆記用具と同じようにiPadが机に並ぶ。メインに利用されているのは授業支援ソフト「ロイロノート・スクール」で、ノートとして使ったり、提出物の回収に使ったりするなど、授業のインフラのような存在だ。赤尾氏は「iPadの良さはApple Pencilが使える点です。特に低学年の児童はフリックやキーボードによる文字入力が難しいため、手書きした文字がそのまま書き込めるツールがデバイス選定の上では重要でした。書き味もよいため、理科の授業では全てiPad上で教材を管理しています」と話す。
体育の授業では、遅延再生アプリを活用して走ってきた様子や走り終えたときの様子などを後から確認している。動きを客観的に知ることで、その後の体の動きを改善できるようになる。こうした見学のメモもiPadで記録しており、日常的な端末活用がなされている。
「iPadを導入したことで特に伸びたのが、発表する力や、発表内容をまとめる力です。また、iPadを持つことにより、分からないことに対して『分からない』とはっきり伝える子供が増えました。背景には、教員自身が授業中に端末を活用していて『ここの使い方が分からない』という発言が増えたことがあると考えています。子供たちにiPadの使い方を教員が聞くことで、子供たちも分からないことが悪いことではないと認識するようになったのでしょう。こうした発言によって、子供たちの学びの中でのつまずきが可視化できることも、iPadを導入したことによる大きな変化ですね」と赤尾氏は語る。
今後も洗足学園小学校では、学園全体の理念である“社会のリーダーを育成する”教育を実現するため、ICTを活用した学びに取り組んでいく。