GIGAスクール実践校現地リポート
1人1台端末環境の学びが全国で始まる
GIGAスクール構想により、2021年度から小中学校では1人1台の端末環境による学びがスタートしている。その環境の中で、学校現場はどのように令和時代の学びに取り組んでいくのだろうか。本企画では、GIGAスクール構想を契機に端末導入を進めた三つの自治体にフォーカスし、1年間の端末活用の様子を現地からリポートしていく。
令和の時代における学校の“スタンダード”として、1人1台端末環境を整備するべく2019年12月に発表されたGIGAスクール構想。2023年までの5カ年計画として段階的に進められる予定だった本施策は、新型コロナウイルス感染拡大に伴う、オンライン授業などの需要により大きく前倒しされた。2020年度中に全ての小中学校に、児童生徒1人当たり1台の端末と、高速大容量のネットワーク環境の整備が求められることになったのだ。
自治体によって時期はまちまちであるが、全自治体の内96.5%が2020年度内に納品を完了する見込みであることが、文部科学省による「GIGAスクール構想の実現に向けたICT環境整備(端末)の進捗状況について(確定値)」(2021年5月発表)で示されている。つまり、ほぼ全ての公立小中学校において2021年度から1人1台端末環境による令和時代の学びがスタートしたことになる。
そこで本企画では、各自治体の1人1台端末活用の状況を、導入初期、導入中期、導入後期と3回に分けてリポートしていく。第1回目となる今回は導入初期の活用状況を現地の教育委員会および学校現場に取材した。
調達基準に準拠した端末選定
取材した自治体は群馬県吾妻郡草津町、福岡県大牟田市、大阪府柏原市だ。それぞれChromebook、iPad、Windows端末を選定し、2021年度から本格的な活用をスタートさせている。
各自治体の端末選定で共通するのは、文部科学省が示した「GIGAスクール構想の実現 標準仕様書」(調達基準)に基づき、タブレットとしてもノートPCとしても使える端末を選択した点。タブレット単体の端末を選定した自治体は、合わせてキーボード付きのケースも導入していた。また、クラウドサービスの利用を基本とするスペックで端末を選択しており、GIGAスクール構想による購入補助金(1台4万5,000円上限)内で整備していた。
端末の展開においては、多くの自治体が導入業者からのサポートを得ながら、MDMツール等を活用して端末とアカウントのひも付けや、学級ごとの設定を行ったようだ。多くの学校現場では端末のOSを問わず、教員研修と並行しながら、授業内での適切な端末活用の模索を進めている。すでに主体的・対話的な学びに向けた端末利用に自然と取り組んでおり、今後のさらなる活用により、授業がどう変化していくのか注目していきたい。
生徒の意見を参照した対話的な学びを実現
生徒の意見を参照した対話的な学びを実現
生徒の意見を参照した対話的な学びを実現
GIGAスクール構想において多くの学校現場で導入されたChromebook。その魅力は起動の速さや動作の軽快さ、セキュリティ性の高さにある。一方で、慣れないChrome OSの操作に困惑の声もあるようだ。草津町での活用事例を見ていこう。
温泉街として知られる群馬県吾妻郡草津町には、小学校が1校、中学校が1校の2校が設立されている。それらの学校において、GIGAスクール構想を契機に導入されたのがChromebookだ。レノボ・ジャパンが提供する「Lenovo 300e Chromebook 2nd Gen」を児童生徒1人1台用の端末として選定している。
草津町立草津中学校では、GIGAスクール構想によってChromebookを2021年3月に導入し、毎日の授業で積極的な活用を進めている。教室にはGIGAスクール構想以前からプロジェクターが設置されており、1人1台の端末環境が整備されたことによって、教員だけでなく生徒の端末からも教材などの投映が可能になっている。
生徒個々人に配付するGoogle Workspace for Educationのアカウントの作成など、導入当時の端末整備などは導入業者が行った。アカウントの管理は草津町教育委員会が行い、各学校に配付している。それぞれの端末の使用履歴などはChromebookのMDM「Chrome Education Upgrade」を用いて、遠隔で管理している。
草津町教育委員会事務局 学校教育係 係長 宮﨑直也氏は「導入当初の先生方は『負担が増えた』という反応をされていた印象が強いですね。Chromebookは従来先生方が使っていたWindows端末とは操作性が異なることや、ExcelやWordなどのマイクロソフト製ソフトが使いにくいため、抵抗感はあるようです。現在は授業での活用と平行して、先生方への研修も進めています」と話す。
授業では毎日のようにChromebookが使われているという。Chromebookを導入したことにより、変化したのは生徒たちの授業への向かい方だ。従来であれば生徒の意見は、挙手をして黒板に書くことで共有していたが、Chromebookからプロジェクターに接続して発表をすることで、意見の共有が容易になった。新しい学習指導要領で挙げられている主体的・対話的で深い学びの実現が、Chromebookを導入したことで実現できていると言える。
今後は1人1台の端末環境を生かし、自宅へ端末を持ち帰って学べる環境整備の構築も進めていきたい考えだ。
オフラインでも使える端末で理解を深める
Choice:iPad OS
大牟田市教育委員会
その直感的な操作性と、教育向けアプリケーションの豊富さから、GIGAスクール構想以前からさまざまな学校で導入されていたiPad。その端末管理から授業での活用について、大牟田市の事例を見ていこう。
福岡県の最南端に位置する大牟田市は、江戸時代からの炭鉱の街として知られる。その大牟田市でGIGAスクール構想を契機に導入したのが、iPad OSを搭載したiPad(第7世代)のWi-Fiモデルだ。2021年3月に市内の小中学校に段階的に整備され、2021年4月から学校現場での活用がスタートした。
大牟田市における端末活用において、iPadを採用した理由はオフライン環境下でも使える点にある。大牟田市教育委員会事務局 学校教育課 主査の松浦知典氏は「Chromebook、Windows端末も検討しましたが、オフライン環境でも使える点や、文部科学省が示す調達基準(標準仕様書)を満たすスペックで十分に動作し、教材が豊富である点などからiPadを選定しました」と語る。
端末とアカウントのひも付けなどのセットアップ作業は「Apple School Manager」を活用し、導入業者が一括で設定した。現在のアカウントの管理などは教育委員会が一元的に行っている。その背景には、管理者の権限が全アカウントに及ぶため、各学校ごとに管理者の権限を付与すると、変更したA校の設定が、市内全校に及ぶ可能性が生じるリスクがあるからだ。
大牟田市立銀水小学校では、以前からプログラミング教育の研究校としてICT活用に取り組むなど、ICT教育に取り組む土壌が育っている学校だ。導入したiPadについて、同校の校長を務める城﨑清彦氏は「iPhoneを使っている教員も多く、高い親和性で授業に活用できる点がよいですね。動作も安定しており、スムーズに授業で活用できます。若い先生方などは『待っていました』とばかりに積極的に使っており、それを見た年配の先生方にも活用が広がっています。とはいえ、全ての授業で必ず使うようにお願いしているわけではなく、必要な授業シーンで適切に使うことをお願いしています」と語る。
現在、体育のマット運動や英語の授業で活用しているほか、国語と算数では全学年で学習者用のデジタル教科書を導入しており、子供たちの学習に対する理解を深めるツールとして積極的な活用が進んでいる。教員への研修なども実施し、Appleが提供する学習支援アプリケーション「クラスルーム」やAirDropの使い方など、教員間でも互いに学び合う環境で、1人1台の端末環境での学びの質を高めている。
使い慣れた操作性で授業内容の拡充に注力
Choice:Windows
柏原市教育委員会
GIGAスクール構想での端末導入において、Windows OSのシェアは決して高くない。しかし、既存環境との親和性の高さや操作習得の必要がない点などから、Windows端末を選択した自治体も少なからずある。学習環境でWindowsを選択した効果について、柏原市が語った。
ぶどう栽培が盛んな大阪府柏原市では、GIGAスクール構想における1人1台用端末にWindowsを選択した。Windows端末を選定した理由について、柏原市教育委員会 教育部 指導課 指導主事の菰池孝彰氏は「操作習得に時間がかからない点がポイントでした。特に校務でのOfficeソフトを使用する先生方にとって、日常的に使っているWindows端末を授業でも使えるようにすれば、操作習得ではなく授業の中身を考えることに重点を置けると考えました」と語る。
選定した端末は日本HPのコンバーチブルPC「HP ProBook x360 11 G5 EE」。Windows OS搭載の教育向け端末は多数販売されている中で、決め手になったのはその堅牢性の高さだ。児童生徒が日常的に端末を活用する場合、意図しない落下などにより端末が故障する恐れがある。そうした恐れがなく、安心して使える端末として、HP ProBook x360 11 G5 EEを選択したのだという。
端末は2020年11月に、市内の小学校6学年と中学校3学年の児童生徒に先行して導入。その他の学年についても2021年2月に導入を完了させ、学びの中での活用を進めている。端末の展開にはMicrosoft 365 Education A3のサービスであるMDMツール「Microsoft Intune」を利用した。OSのアップデート管理や試験的に取り入れたいアプリケーションの配信もIntuneで行っている。
柏原市教育委員会 教育部 指導課 指導主事の川口裕之氏は「初回ログインは端末とアカウントのひも付けのため時間を要しましたが、その後は端末の起動やログインに時間はかからず、スムーズに授業で活用できています。OSのアップデートのタイミングもコントロールでき、授業に支障を来すことはありません」と語る。
6月の段階では約90%以上が、どのクラスでも週1回以上使っており、そのうち毎日使っているクラスがある学校は、柏原市の小中学校17校中8校に上るなど、端末を活用した学びが普及しつつある。教員同士で「Microsoft Teams」を活用したオンライン会議を実施するなど、校務効率化にも役立てられているようだ。
今後は各学校から教員の授業事例を共有し、よりICTの活用に適した授業シーンの研究を進めていく。