ChatGPTは何ができて、何が不得意か
多くの人が、最初にChatGPTにアクセスしてまずは自分の名前や会社・学校名などを入力してみるだろう。たとえば「土屋勝ってどんな人」と。
2月ごろに自分の名前を尋ねたところ、ChatGPTはレーシングドライバーの土屋圭市と混同した答えを返してきた。今回、久しぶりに「土屋勝ってどんな人」と聞いたところ、土屋勝と土屋圭市は区別しているが、「土屋勝さんは日本の俳優であり、映画やテレビドラマで活躍しています。彼の出演作品には、映画『20世紀少年』シリーズやテレビドラマ『仮面ライダーシリーズ』などがあります。また、舞台俳優としても活動しており、幅広い役柄を演じています」という謎の解答だった。Googleで「俳優の土屋勝 20世紀少年 仮面ライダー」と検索しても、該当する人物はまったく出てこない。
ChatGPTはインターネット上で公開されている膨大なテキストデータを学習し、それをもとに「辻褄」の合う解答を述べている。ここで使われている「大規模言語モデルとは何?」と尋ねると
「ChatGPTは、特に対話型の応答生成に特化したモデルです。その基盤となる大規模なトランスフォーマーネットワークは、GPT(Generative Pre-trained Transformer)と呼ばれます。GPTは、大量のテキストデータを学習することで、言語のパターンや文脈を把握し、その知識を利用して応答を生成します。」と教えてくれた。
インターネット上で公開されているテキストのほとんどは英語で書かれている。人類80億人のうち、日本語を常用している人は1億人程度であり、圧倒的に少ない。だから学習する元データも英語が中心で、日本語についての知識はかなり乏しいとみなければならない。あまり有名ではない日本人名など固有名詞について尋ねても、期待した結果は得られないだろう。
これで「ChatGPTなんて使えない、オモチャだ」と見切ってしまってはもったいない。というか今後の進化・発展を考えれば非常に危険な態度だと思う。この数か月間でも急速に回答精度は上がってきているし、APIやプラグインなど周辺環境も充実してきている。さらにChatGPTなどから適切な解答を得るためのプロンプトエンジニアリングという技術、職業も脚光を浴びている。
ChatGPTをどう活用するか
私は、ChatGPTを主に「ビジネス英語文のブラッシュアップ」と「プログラミング」の2つに使用している。
外国企業と英語でやりとりする必要があるのだが、これまではDeepLの無料版で英文に翻訳していた。DeepLも人工知能を使った翻訳サービスで、下手に自分で考えるよりはまともな英文を作ってくれるのだが、DeepLで生成された英文をChatGPTでブラッシュアップさせると、さらに英語らしい英文にしてくれる(ようだ)。外国人と英語でコミュニケーションとるためには、「日本語→英語」というステップを踏んでいてはダメで、最初から英語が頭に浮かばなければならないが、間違いや失礼があっては困るビジネス文書や論文はAIを積極的に活用するのが良いだろう。
なお、翻訳を含めてChatGPTに個人情報やビジネスに関する質問をする際には質問内容を学習しないよう、「Chat History & Training」をオフにしておくべきだ。これをやっておかないと個人情報や機密情報がChatGPTに学習されてしまい、他の人に提供されるおそれがある。
それとChatGPTが有効なのはプログラミングだ。プログラミングというほどでないExcelのちょっと複雑な処理やHTML/CSSの書き方からPythonやPerlでのプログラミングまで。言語ごとに異なるコマンドや構文を覚え、それを間違いなく使いこなすことは難しい。ChatGPTに作りたいプログラムの仕様を指示すれば、かなり正確にソースコードを示してくれる。
ただ、ChatGPTは「真実らしい嘘を平気でつく」。そのプログラムがちゃんと動くのか、特にセキュリティ上の問題がないかなど、使う人間がチェックする必要がある。ChatGPTが出してきたソースコードを読めないと危険だ。
Excelのエキスパートが教えてくれるビジネスでのChatGPT
本書の著者はExcelやマクロ関連のエキスパート。YouTube総再生回数1,000万回、チャネル登録者約9万人、オンライン動画教育プラットフォームUdemyでは12万人以上の受講者に動画で授業を行っている。その経験と知識を生かし、ChatGPTを使ってExcelの関数やマクロを生成し、仕事を加速する50の活用事例を紹介している。
誰もが思い付くであろう活用事例としては「Excelで○○する方法を聞く」「セル範囲を指定して質問する」「Excelで○○するための数式や関数について聞く」方法というものが挙げられる。こういった質問はChatGPTがもっとも得意とする分野だ。
自分が思い付かなかった活用法としては「漢数字を算用数字に変換する」「苗字と名前を分割する」「住所を分割する」といったもの。Excelの関数を使うのではなく、ChatGPTにデータ処理をしてもらうのだ。たとえば「土屋勝」を「土屋」と「勝」に分ける、「大阪府大阪市北区中之島3-2-4」を「大阪府」「大阪市北区」「中之島」「3-2-4」に分けるといった具合。ChatGPTが学習している膨大なデータを駆使し、自動的に分けてくれる。Excelに限らず、住所録ソフトなどに入力するときにも活用できる。
あくまで統計的な処理なので、正しく分割できているかは人間が目視でチェックしなければならない。また個人情報の取り扱いにも注意が必要だ。個人情報・機密情報保護といえば、ChatGPTに必要項目(氏名、住所、年齢、性別、嗜好)、件数などを指示し、ダミーデータを作成してもらうことができる。面倒なダミーデータの作成が一瞬でできるので、これを使えばプログラムテスト段階での個人情報・機密情報漏洩といったトラブルを防ぐことができる。
面白いなと思ったのはデータを示し、ChatGPTに意見をもらうという使い方。本書では「あなたは中小企業診断士です。次の損益計算書をもとに、業績改善のアイデアを下さい」「私はECサイトのWebマーケターです。以下のECサイトの業績データについて、上司に報告するレポートをください。レポートには、1.要約、2.課題点、3.改善策を含めて下さい」「以下の売上表をもとに、上司へ報告レポートを作ります。ピボットテーブルを作成したいのですが、どんなピボットテーブルがおすすめですか? いくつかの提案を、目的、メリット、デメリットともに表で回答してください」といったプロンプトの例が出ている。
試験問題やゲームを作ることもできる。ChatGPTが問題を作る側になるのだ。本書では「ExcelでIF系の関数について四択問題を2つ下さい」というプロンプトに対し、「○○する関数は次のうちどれか」といった問題が取り上げられている。自分で試したところ、本書に掲載されている例とは違う問題が出題された。
自分が何をやればいいのか、という質問は人工知能が苦手とする分野だと思っていたが、そこまで技術は進んでいるらしい。教師がChatGPTを使ってレポート課題を作成し、学生がChatGPTを使ってレポートを書き、ChatGPTが採点する、といった世界が到来するのだろうか。
本書はExcelに限らず、仕事でChatGPTを活用しようと思っている人、生成AIに興味や危惧を持っている人にお勧めだ。
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次のビジネスモデル、スマートな働き方、まだ見ぬ最新技術、etc... 今月ぜひとも押さえておきたい「おすすめビジネスブック」をスマートワーク総研がピックアップ!
『先読み!IT×ビジネス講座 ChatGPT 対話型AIが生み出す未来』(古川渉一、酒井麻里子 著/インプレス)
「ChatGPT」は文章生成AIです。人間が入力した質問に答える形で文章を返してくるので「対話型AI」とも呼ばれていて、自由度の高い会話をしながら自然な文章が生成できるのが特徴です。創作分野をはじめ、プログラミング開発、カスタマーサポートといったビジネス領域、そして教育の現場などさまざまな領域に影響が及ぶため、いま世界中で大きな注目を集めています。本書では、そのChatGPTの実力や技術的な背景、可能性、課題、ビジネス事例などをその分野の第一人者に質問しながら深掘りしていきます。(Amazon内容紹介より)
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『先読み!IT×ビジネス講座 画像生成AI』(深津貴之、水野 祐、酒井麻里子 著/インプレス)
『先読み!ビジネス講座』は、「この先どうなっていくかがわかる」「リアルな話がわかる」「手っ取り早くわかる」の3つの「わかる」をコンセプトに旬のトピックをひもとくIT×ビジネス解説書です。今話題の画像生成AIってどんな技術なの?どうやって使うの?著作権問題はどうなっている?などの疑問に、その分野の第一人者が1つひとつ丁寧に答えます。先端技術である画像生成AIの今、そしてこれからについてがわかります。 (Amazon内容紹介より)
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