Special Feature 2
空飛ぶ宅配便
レベル4と言われる、有人地帯におけるドローンの目視外飛行が2022年中に解禁される。これにより活用の広がりが期待されているのが、ドローンによる宅配だ。すでにさまざまな企業や自治体が実証実験に取り組んでいるドローン宅配(配送)は、実用化することでどのような変化をビジネスにもたらしてくれるのだろうか。本特集では、すでにドローン配送の商用サービスや実証実験を行っている事例を紹介すると同時に、具体的な航空法の改正ポイントと、レベル4解禁によるドローン配送を含むドローンビジネス市場の可能性について探っていく。
Level.3のドローン活用
日用品や医薬品をドローンが届ける
Case.1:山梨県小菅村
買い物難民をドローンが救う
東京都心から車で約2時間ほどの場所に位置する山梨県北都留郡小菅村は、多摩川の源流部であり、村の約95%が森林に囲まれた自然豊かな村だ。その小菅村の上空を飛び、住民の荷物を運ぶのがエアロネクストと自律制御システム研究所(以下、ACSL)が共同開発した物流専用ドローン「AirTruck」の試作機だ。独自の機体構造設計技術4D GRAVITYを採用しており、荷物を運ぶ際でも安定した重心で、より速く飛行する機体だという。小菅村のドローン配送では、ドローン配送専用倉庫である「SkyHub 小菅村ドローンデポ」で商品をピックアップし、配送用のドローンに積載する。指定時刻になると離陸し、自動飛行によって村内5カ所にあるドローン配送場所「ドローンスタンド」に荷物が配送される仕組みだ。
エアロネクストと小菅村との連携は2020年にさかのぼる。ドローン配送事業の実現化と、ドローン配送導入における地域活性化に向けた連携協定を締結したのが同年の11月12日のことである。しかしそもそものきっかけは、エアロネクストが自社のドローン研究開発を行う拠点として、都心近くでドローン飛行が行える場所を探していたことだった。従業員の1人が小菅村を提案し訪れたところ、小菅村長の舩木直美氏から「過疎地に共通する社会課題として、物流や医療の提供が十分に行えない課題がある」と打ち明けられたという。小菅村は総人口684人、老年人口が310人(2020年時点)と高齢化が進む過疎地域だ。以前は村内に複数の商店があったが、閉店が相次ぎ現在は食品を取り扱う商店は1店舗しかない。地域住民は車で約30分かかる同県内の大月市など、周辺市町村に日常の買い物に出かけている状態だった。エアロネクストは2021年1月20日にドローン配送サービスをメイン事業とする戦略子会社NEXT DELIVERYを設立し、その本店を小菅村に構えた。前述したSkyHub 小菅村ドローンデポのはす向かいにある建物がその本店だ。
陸送とドローンを組み合わせる
2021年1月22日には、大手運送企業である西濃輸送を傘下に持つセイノーホールディングスとエアロネクストが、新スマート物流の事業化に関する業務提携契約を締結。トラック運送などの既存物流とドローン物流を連結・融合させた新スマート物流サービスの確立を目指し、小菅村での実証を進めていた。2021年4月からスタートした実証実験だったが、約半年の検証期間を経て同年11月1日からは商用サービスとしての新スマート物流「SkyHub」の運用を開始している。
「SkyHubでは、二つのサービスをしています。一つ目はオンデマンド配送サービス専門コンビニ『SkyHub Store』で、アプリやLINE、電話から食料品や日用品の注文を受け付け、ドローンデポから村内に五つあるドローンスタンドに、ドローンで荷物を届けます。二つ目は地域の商店と連携した買い物代行・配送代行サービス『SkyHub Delivery』で、ドローンは使用せずに車で地域の商店やスーパーの商品などを希望日時に個人の家に配送するものです」とサービスについて話すのは、エアロネクスト 取締役 グローバルCMO 事業部 部長であり、NEXT DELIVERY 取締役も兼任する伊東奈津子氏。取材当日時点で、SkyHub Storeは239回、SkyHub Deliveryは532回の配送実績があった。
ドローン配送のメリットは、決められた道路を走る車と比較して最短ルートを選択できるため、より効率的な配送が可能である点だ。また、現在はドローンの発着陸時に補助員による目視確認が必要となるが、これが将来的にカメラなどの監視での代用が可能になれば、無人化によるドローン配送が実現でき、人的コストの削減も期待できる。
伊東氏は「現時点では、車での配送と比較してドローン配送の方がコスト負担が大きいです。しかし将来的に、ドローンが車のように広く市場に普及したり、ドローン配送の利用者が増えたりすることでコスト負担は改善されていくでしょう。また、SkyHubではドローンと陸送を組み合わせた配送サービスを提供することで、地域住民へのきめ細やかなサービスを提供すると同時に、サービス全体でみた収益獲得を実現できるようにしています」と語る。
ドローン配送で注文される商品は、アイスクリームやシュークリームのような、車で買い物に行くと溶けてしまう生ものの需要が高い。アイスクリームのような冷凍食品はドライアイスを詰めるなどして、配送時に溶けないよう工夫している。「特に夏場は、アイスクリームの需要が非常に高いですね。地域のコンビニのように、ドローン配送を使ってもらっています」と伊東氏は笑う。
最後に伊東氏は「地方に暮らす高齢者は、免許返納や公共バスの廃線により、これからますます生活の利便性が低下してしまうでしょう。そうした時に、無人化・自動化のツールは有効に活用できると思いますし、空の自動化ではドローンが大きく活躍していくでしょうね」とドローン配送の可能性を語ってくれた。