今読むべき本はコレだ! おすすめビジネスブックレビュー - 第26回
会議中に恥をかく前に読むべきIT専門用語「図鑑」
『ゼロから理解する ITテクノロジー図鑑』三津田治夫 監修、武田侑大 イラスト、岩﨑美苗子 文/プレジデント社
企画書に賢そうなIT専門用語を並べてはみたものの、上司にその意味を尋ねられ、しどろもどろに……なんて恥ずかしい思いをする前に、知識はきちんと仕入れておきたい。今回紹介する「図鑑」ならば、コロナ禍以降のニューノーマル時代に対応した厳選100ワードを易しく学べるだろう。
文/成田全
専門的な知識がなくても理解できる“ITの図鑑”
「IT」は何の言葉の略称か、また日本語ではどのような言葉になるのか、答えられるという方はどのくらいいらっしゃるだろう(英語の代名詞ではありません)。正解は「Information Technology=情報技術」。「イット」などと誤読した政治家もいたが、その言葉の意味を正しく理解していれば、読み間違いはしないはずだ。
インターネットの普及に伴ってITに関連する技術が進歩し、最新のテクノロジーを使ったサービスはここ数年で爆発的に増えた。
朝、目覚ましにしているスマホで今日のニュースと天気、スケジュールをチェックして、出社日は非接触ICカードで電車やバスに乗り、会社で飲むコーヒーを待たずに買うためにアプリ経由でオーダー、出先でいい風景があればスマホのカメラで撮影してSNSへアップする。
在宅勤務のときはパソコンやタブレットを自宅のWi-Fiへつないでオンライン会議をして、同僚とチャットでブレストを行い、クラウド上で共有された企画書を開き、次のプレゼン資料用の電子書籍をネットショップで購入、掃除は全自動掃除機に任せて、スマートスピーカーに話しかけてサブスクの音楽を再生、休日は動画配信サービスで映画やドラマを見て、ネット上のフードデリバリーサービスから選んだメニューで夕食……と、20年前、いや10年前でもちょっと考えられないほど、ITは日常を支えるインフラとして欠かせないものとなった。
もちろんITに関連する技術やサービスの意味を知らなくても、こうした便利さを享受することはできる。しかし語句の意味と、それらが担っている働きを理解すると、テクノロジーが苦手な方もITがグッと身近に感じられるようになり、これから生まれてくる新しい技術への理解も進むことになるはずだ。そこでぜひ手元に置いてもらいたいのが『ゼロから理解する ITテクノロジー図鑑』だ。
もはや「知らない」「わからない」では済まされない
本書はITとテクノロジーを理解するために選ばれた、重要なキーワードである100の用語が見開きでひとつずつ展開され、左ページは文章による解説、右ページには文章の内容が膨らむイラストで構成されている。
監修を務めた三津田治夫氏は「はじめに」でこう書いている。
個人情報から金融取引まで、私たちの生活がITでつながる中、「知らない」「わからない」で済まされる時代ではなくなっています。特に、新型コロナウイルスで、テレワークを導入しはじめた企業に勤務する方にとって、Wi-Fiやインターネットの仕組みなどが理解できなければ、自宅でITの環境を整備しづらいと思います。
このような方々に向けて、「IT社会に不可欠なIT、テクノロジーのキーワードをゼロから理解する」をコンセプトに、イラストを通じて概念をつかむことができる図鑑を作りました。ゼロから理解できることを念頭に置いて作成しているため細かなニュアンスは省略していますが、ざっくりと理解できるよう工夫をこらしています。
「図鑑」である本書は全6章で構成され、順を追っていくことで基本から各論へと入っていく。頭から読書をして理解を深めるのもよし、わからない用語があった際に探して読むのでもOKだ。
次の“パラダイムシフト”のために
各章のタイトルと、本書で取り上げられている用語を列挙してみよう。
第1章 テクノロジーの基本「CPU、GPU」「Wi-Fi」「UI、UX」他
第2章 テクノロジーの裏側「アジャイル開発」「拡張子」「Cookie」他
第3章 テクノロジーと社会「情報システム」「デジタルディバイド」「RPA」他
第4章 テクノロジーとAI「シンギュラリティ」「AI(人工知能)」「ディープラーニング」他
第5章 テクノロジーと金融「フィンテック」「仮想通貨(暗号資産)」「ブロックチェーン」他
第6章 テクノロジーが変える未来「自動運転車」「VR、AR」「リモートセンシング」他
これらの言葉の意味を正しく知っており、十全に説明ができる、という方は本書を読まなくても大丈夫だが……これらすべてを説明するのは、なかなか難しいのではないだろうか? また文章だけでなく、各キーワードを説明するイラストにも発見があるので、眺めているだけでも楽しい一冊だ。
2007年、アップルが「iPhone」を発表した際、スティーブ・ジョブズは「Apple reinvents the phone=アップルが電話を再発明する」というスローガンを使った。iPhoneの登場は称賛の声があった一方、「技術は目新しいものではない」と切り捨てた一部の口さがない批評家もいた。しかしどうだろう? 現在はさらなる進化を遂げ、スマホのない生活はとても考えられないものとなった。スマートフォンはまさに「パラダイムシフト」(もちろんパラダイムシフトも本書で説明されている)を引き起こしたのだ。
どんなに優れた新しい技術があったとしても、それだけで製品になるわけではない。その新しい技術を既存の何と組み合わせると、ユーザーは「新しいもの」として認識するのか? またその製品が人々の生活に欠かせないものとなるためにはどんなことが必要なのか? そのヒントが、本書にはたくさん詰まっているといえよう。
まだまだあります! 今月おすすめのビジネスブック
次のビジネスモデル、スマートな働き方、まだ見ぬ最新技術、etc... 今月ぜひとも押さえておきたい「おすすめビジネスブック」をスマートワーク総研がピックアップ!
『経済がわかる 論点50 2021』みずほ総合研究所 著/東洋経済新報社
日本有数のシンクタンク・みずほ総合研究所のエコノミストが2021年の経済見通しを徹底解説! コロナで日本と世界はどう変わる!? 厳選した50テーマで、2021年の国内外の経済の重要な動きを先読みできる。「日本経済」「海外経済」「金融・マーケット」「制度・政策」「ビジネス・社会」ごとに10の論点を解説します。定番テーマはもちろん、話題のテーマまで網羅!! 東京五輪延期の影響とは?/米中対立は常態化しついに「新」冷戦に突入?/ついに始まった5Gが抱える課題とは?/70歳までの就業促進は日本の雇用をどう変える?/「デジタル人民元」実用化の影響は?/サステナブルな社会に向けた欧州の脱炭素化戦略とは?(Amazon内容紹介より)
『観光再生 サステナブルな地域をつくる28のキーワード』村山慶輔 著/プレジデント社
「移動制限」「訪日客99.9%減」という危機から観光再生を目指すためのヒント&事例が満載! 地域を担う人、事業者、自治体などすべての関係者に読んでもらいたい1冊。コロナ禍によって大きく変わり始めた観光のかたち。その潮流は、今般のコロナが発生する以前からあった……。厳密にいえば、ここ数年、徐々に変化してきたこうした観光のトレンドが劇的な動きをみせ、観光客のニーズはもちろん、受け入れ側である観光地や地域社会・住民の意識は、元の状態に戻るのではなく、違うかたちで「再生」されるということだ。地域や観光に携わるすべての人・事業者は、その変化を俯瞰して見定め、対応していかなければならない。28のキーワードからひも解く「観光再生」への道とは──?(Amazon内容紹介より)
『XaaS(ザース)の衝撃 すべてがサービス化する新ビジネスモデル』日経産業新聞 編/日本経済新聞出版
コロナ禍でさらに加速する「サービス化」へのシフト。その最前線を日経記者が追う! 消費者の関心が「所有から利用」にシフトするいま、あらゆるもの(X)がサービスとしてネット経由で提供される「XaaS(as a Service)」が注目を集めている。もともとはIT・クラウド業界で使われていた用語だったが、移動手段(モビリティ)を提供する「MaaS」が一般的になるとともに、急速にその範囲を広げてきている。本書は、各産業で起こっている最先端の動きを、日経の取材記者が追ったルポ。先行する北欧をはじめ国内外のMaaS事例のほか、ダイキンの「AaaS(Air)」やコマツの「CaaS(Construction)」など、幅広い業界の動向を紹介する。識者へのインタビューも多数収録。今後のビジネスを見通すうえで、欠かせない1冊だ。(Amazon内容紹介より)
『事例で学ぶ BtoBマーケティングの戦略と実践』栗原康太 著/すばる舎
従来、テレアポや展示会への出店などを主要な顧客獲得手法としてきたBtoBの業界では、Webを利用したインバウンドマーケティングへの大転換が起きています。しかし、これまでノウハウがなかったBtoB企業が見様見真似でWebマーケティングに挑戦しても、なかなかうまく行かないのが実態です。BtoB分野ではBtoCとは異なる特徴があることもそのハードルをさらに高くします。本書は、早くからこのBtoBマーケティングの分野で試行錯誤を積み重ね、ネットでも情報発信をして高い人気を誇る才流の栗原代表が、その専門知識について初めて語った1冊。実際の企業例を参考にしたケーススタディを主体にしており、実際の読者のかゆいところに手が届く内容になっています。(Amazon内容紹介より)
『デジタルエコノミーの罠』マシュー・ハインドマン 著、山形浩生 訳/NTT出版
デジタルメディアは、多くの人の思いこみと異なり、小規模生産者に有利にはたらかない。お金、職員、データ、計算力、知的財産、固定した観衆をもつサイトが有利なのだ。ある企業が独占と見なされるのは「著しく持続的な市場支配力をもつ」場合だ。グーグル、フェイスブック、マイクロソフト、アマゾン、アップルはすべて、認められた市場支配力の基準をはるかに上回る市場シェアをもっている。この集中は、経済、政治、ニュース、果ては国家安全保障について、どんな意味をもつだろうか? オンライン寡占は避けられないのか、それともインターネットの罠を逃れる方法はあるのだろうか? 本書が答えようとするのはこうした問題だ。(Amazon内容紹介より)
筆者プロフィール:成田全(ナリタタモツ)
1971年生まれ。大学卒業後、イベント制作、雑誌編集、漫画編集を経てフリー。インタビューや書評を中心に執筆。幅広いジャンルを横断した情報と知識を活かし、これまでに作家や芸能人、会社トップから一般人まで延べ1600人以上を取材。『誰かが私をきらいでも』(及川眠子/KKベストセラーズ)など書籍編集も担当。